令和元年5月26日(日)、英語授業研究学会関西支部第30回春季研究大会が大阪商業大学で開催され、現場の先生方を中心に多数の方が参加されました。その様子を紹介させていただきます。
1.映像による中学校授業研究と協議
(1)中学校「教科書から自分の意見を表現する授業(中3)
~キング牧師のスピーチから外国人差別を考える~」
授業者:山崎 寛己(松原市立松原第七中学校)
コメンテーター: 加賀田 哲也(大阪教育大学)
山崎先生は教員になられて以来、英語授業研究会にいつも熱心に参加されてきた先生である。これまで英語授業研究会例会で何度か授業の発表をなされてきたが、本日の授業は山崎先生の成長が感じられた素晴らしい授業であった。
授業は生徒のスピーチから始まったのだが、驚いたことは、生徒が司会進行を英語で行なっていたことだ。My favorite thingというShow and Tell型のスピーチ活動で、自分のギターについて話した生徒はスピーチ後、演奏してほしいとクラスメートに頼まれギターを弾く。きっとこの生徒にとってクラスメートの前でギター演奏したことはスピーチとともに一生の思い出になるであろう。
授業の構成は、前時の復習としてのリプロダクション活動、そして本授業のメインとなる表現活動へとつながる。教科書の内容を踏まえ身近な社会問題を取りあげ、日本で暮らす外国人が増える中、差別など様々な問題が生じている統計や画像を示しながら、外国人とともに生きる上で大切なことは何かという課題を投げかける。課題のためのワークシートには、アイデアをだす段階(思考)は日本語、発表は可能な限り英語で行う、そしてペアでやりとりができるよう工夫がなされている。ペアでの意見交換を経て、最後にクラスで意見を共有する。映像を見る限り様々な学習形態で学び教え合う雰囲気作りが感じられた。
山崎先生が大切にされている“Share the similarities, celebrate the differences”のメッセージが授業のいたるところで出ており、かつ授業の中に取り入れられていたように思う。そして本日の授業は次期学習指導要領の目標となっている、「主体的」、「対話的」、「深い学び」を促進するモデルとなる授業であった。教員を目指している自分の学生にも見せたいと思うよい授業であった。
米崎 里(甲南女子大学)
(2)高等学校「コミュニケーション英語Ⅰ:発表活動の段階的指導
〜高校3年生(最終ゴール)を見据えて〜」
授業者:豊嶋 正貴(文教大学付属中学校・高等学校)
コメンテーター:大喜多 喜夫(関西学院大学)
ご発表のタイトルである「段階的指導」「高校3年生(最終ゴール)を見据えて」という文言が示す通り、「高校3年生でこのような力をつけてほしい」という長期的ゴールを設定しつつ、それに基づいて一つ一つの授業で生徒が踏まえるべき段階という短期的ゴールを有効に組み合わせておられる。年間計画、単元計画、授業計画を立てるにあたってたいへん参考になった。また、映像の効果的な利用も印象的であった。本課の内容は、トルコと日本の友好的な関係を取り扱っているが、「エルトゥールル号遭難事件」「イラン・イラク戦争」など、読解に多くの予備知識を必要とする。このような歴史的事実の説明では、映像が極めて効果的であることを再認識した。また、それが一方通行ではなく、インタラクティブに進めておられる点もたいへん参考になった。
昨今、リテリング活動が隆盛である。この授業ではリテリング活動が自己目的化せず、後半の「アウトプット」に有機的につなげられていた。複数パターンの音読練習が豊富に盛り込まれており、練習と言語活動の組み立て方、バランスもたいへん工夫されていた。「流行」を盲目的に追いかけるのではなく、「何のためにリテリングを行うのか?」といま一度、考えてみる契機になったのではないか?
そして、特にこの授業の志の高さを感じたのは、最後のアウトプット活動の「お題」である。この課で具体的に学習した日本とトルコの友好関係という「事実」の位相に留まらず、Friendshipというぐっと抽象度を上げたトピックを与えられている点である。具象⇔抽象の「昇り降り」の中でも、特に、「具象的なものを抽象化する」のが苦手な日本人生徒を、知的に刺激し、認識を深化させるのにきわめて有効であったと思う。
平田 健治(奈良女子大学附属中等教育学校)
3.シンポジウム「思考力・判断力・表現力を育てる授業と評価」
提案者: 松下 信之(大阪府教育庁)
増見 敦 (神戸大学附属中等教育学校)
加藤 京子(兵庫県立北条高等学校・非)
コーディネーター:菅 正隆(大阪樟蔭女子大学)
3名の提案者から、思考力・判断力・表現力の育成について指導要領の解説などに触れられたのち、それぞれのお立場で授業と評価の在り方についてご提案をいただいた。
松下先生は、学習過程において、方向性を決定し、見通しを立て、目的達成のため具体的なコミュニケーションを行い、言語面・内容面で自ら学習のまとめと振り返りを行うといった学びの意味づけと思考力・判断力・表現力の高まりを意識させることが大切とされた。また、目的をもって言語活動を行うことが重要であると活動例を示され、全国学力・学習状況調査と大学入学共通テスト試行調査問題などに対応すべく指導を見直す必要があることを述べられた。その際、教師の発問により生徒の思考を促す工夫と、指導の改善に生かす評価や、各自が振り返り次の学びにつなげる自己評価についても言及された。
増見先生は、勤務校の実践例を紹介され、高次思考へと導く必要性、見せ場作り、舞台設定の重要性について述べられた。英語評価尺度(KUSF)開発における基礎力、思考力、実践力では、論理的思考力のみならず批判的・多元的思考力の必要性についても触れられた。また、テーマ単元学習を核にした授業設計を行い、インプットからインテイク、アウトプットにつなげる流れの中で、リサーチや英文レポート、プレゼンテーションを行うなど、言語使用場面を設定し、談話環境(目的、場面、状況)と情報の主体的な加工を組み込むことで、生徒により深く思考・判断・表現をさせておられること、パフォーマンステスト・評価の実施などについて話された。特に、生徒が単元共通の「問い」と「私の問い」に対する分析を記述し、思考・判断・表現しながらMy Englishを育成する過程が大変興味深かった。
加藤先生は、中高で多少文言は違っても目指す方向は一つであると述べられた。増加する語彙や文法は生徒の表現の自由度を高めるツールとして利用すること、教師は「憶えさせないといけない」に決別し、「考える・発見する・意見を言う・表現する学習」へと切り替える必要があること、使いながら覚え、慣れる機会を用意することが重要であると力説された。また、単元末にゴールとなる活動を計画したり、「プロジェクト」形式で活動を行うことで、生徒の成長、達成感が感じられる、そのためにも日々の授業での活動の積み重ねが大切だとされた。さらに、中1入門期にはディスコースへの意識を育てたいと強調され、スピーチやプレゼンテーションの中で生徒の気付きや判断が多くなることや、生徒を伸ばす評価を心掛け、相互評価・自己評価も大切であることなどを、生徒の作品を紹介されながら話された。
生徒に興味を持たせる言語活動や課題、問いなどを授業で設定し、目標をもって活動や学習に取り組ませ、発表をさせて振り返らせるなど、思考力・判断力・表現力を育てるためには、何が求められているかを考え、日々の授業を見直し、指導と評価を改善する必要があることを訴えられた。中高の英語教育における多くの示唆をいただき感謝申し上げたい。
泉 惠美子(関西学院大学)
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