大会第1日 映像による中学校授業研究と協議 「中学3年:教科書の内容に一歩踏み込んだ言語活動を目指して―メモに基づくスピーキング指導―」 授業者:吉澤 孝幸 先生(秋田県立秋田南高等学校中等部) コメンテーター:髙橋 一幸 先生(神奈川大学) 司会:神原 勝 先生(宝塚市立御殿山中学校)
教科書本文をどのように扱うべきなのかというのは,常に議論の対象となっている。確かに長らく「題材を深める」ということは言われているが,生徒が内容について「考える」ことと「言語を使う」ということとを両立させるには非常に入念な授業計画や準備,そして積み重ねが必要だと思われる。吉澤先生はそれを具体的にしかも継続的に実践されていることが見て取れた。 強調されていたのが「まず英語を使うこと」,そして必要に応じて言語形式に注目させたり,具体的なフィードバックを与えたりするということだ。事実,授業全体が生徒にとって英語を使う場となっていた。場面に応じて,教師―生徒,または生徒―生徒のインタラクションがなされており,常に生徒は英語を使っているという状況が作りだされていた。 オリジナルテキストを使用されたが,その文章の解釈に終わることなく,あくまで自己表現をしていくためのきっかけとなっており,内容を理解することの意味づけが十分なされていたため,生徒自身も積極的に読んだり,活動に参加したりできていた。短い時間で読んだり,キーワードのみで即興で話したり,先生のauthenticで自然な速度の英語を聞いて理解できたりしていたが,すぐに身につく力ではなく,先生がスモールステップで1年次から計画的に力をつけさせていたことがうかがえた。また,生徒がペアワークやグループワークだけでなく,クラス全員の前で発表する,話す,そして発表を聞くということに慣れている様子からも日常的な指導が行き届いていると感じた。 今回の授業は,「英語」教育は当然ながら,人間として成長させるような「教育」の場となっており,助言者の髙橋先生が話されたように,今後私たちが目指すべき授業を見ることができた。次からの授業に生かしていきたい。
篠崎 文哉(大阪教育大学附属天王寺中学校) 大会第1日 30周年記念講演 「CEFRに基づく指導と評価―表現活動に焦点を当てて―」 講師:根岸 雅史 先生(東京外国語大学大学院) 司会:加賀田 哲也 先生(大阪教育大学)
英授研設立30周年記念講演にふさわしいご講演であった。CEFRとはCommon European Framework of Reference for Languageの略称であり,2001年に公表されている。過去における2度の世界大戦で分断されたヨーロッパの中で,異なる歴史的背景や言語と文化を背負った人々を一つにまとめるため,複言語主義,複文化主義に基づく言語教育政策によって考案されたものである。それぞれの国で話されている言語の文法・語彙・音声は異なっており,指導・評価を共有化するのは難しいため,言語を使って「何ができるか」を基準に,現在日本でも指導や評価に生かされている。 言語活動はunderstanding (listening & reading), speaking (spoken interaction & spoken production), writingの5領域に分類されており,言語能力は,A(Basic User), B(Independent User), C(Proficient User)によって分けられている。 CEFRにはCan-Do descriptors (「言葉を使って何ができるか」) があり,自身の言語能力を自分で見て,気づいて,評価できるようになっている。また,ここでは,言語学習者は,単なる「学習者」ではなく,「言語使用者」という観点から捉えられていることも興味深い。2018年にはCEFRの増補版 (CERF/CV)が出された。最初CEFRと根本的に変わるものではなく,A1レベルの前にPre-A1レベルの記述が追加されたり,Cレベルの記述の内容が充実され,より現実味を帯びたものに修正されたりしている。また,A2+,B1+,B2+のように,レベルの概念がより細かく分類されたり,phonologyやmediation(媒介)の領域の尺度の開発がなされたりしている。 最後に,CEFRが今後も言語能力評価指標となって使用されることは有用であるが,日本の大学入試にそのまま参照されるには検討の余地があることに言及された。今一度,CEFRの本質について考えさせられる示唆に富むご講演であった。
秋山 容洋(姫路市立四郷学院後期課程) 大会第2日 映像による高等学校授業研究と協議 「高校1年 英語表現I:フォーカス・オン・フォームを活用したタスク活動の一例―コミュニケーションのための文法指導を目指して―」 授業者:髙山 リサ 先生(京都市立紫野高等学校) コメンテーター:大喜多 喜夫 先生(関西学院大学) 司会:豊嶋 正貴 先生(文教大学付属中学校・高等学校)
髙山先生はほぼ単元毎にタスク活動を取り入れた授業を展開されている。授業を行う上で,次の3つのことを常に意識しているという。①興味関心を引く身近なテーマ設定,②authenticなモデルを含む表現の「型」の提示,③書いたもの,調べたことなどを共有する機会の設定,である。今回の授業では仮定法を扱っており,「私が紫野高校の校長先生だったら」というタイトルを提示し,生徒自身が自分ごととして捉えやすい身近なテーマを設定された。生徒は自校の課題や問題点を見つけ出し,どう改善すればよいかを複数のクラスメイトの意見を尋ねた。そして,聞き取った様々な意見を集約・分析し,自分なりの解決法とその理由を例を参考に整理するという流れで授業は進められた。その後,3~4人のグループで互いにスピーチのアウトラインを発表し,そのパフォーマンスを評価するという活動であった。 このようなタスク活動は綿密な年間の指導計画やパフォーマンス評価のルーブリックの上に成り立っている。また,重要なテーマ設定も,身近な内容に偏ることなく,社会的な内容も扱うよう計画されている。さらに,髙山先生は他者との意見交流も大切にされており,発表活動以外にも生徒が調べて書いたものを壁新聞として掲示することも行っているとのことである。こうした土台があってこその本授業であった。副題にあるとおり,コミュニケーションのための文法指導の在り方として大いに参考となる授業であった。
神原 勝(宝塚市立御殿山中学校) 大会第2日 シンポジウム 「新学習指導要領に基づく指導と評価」 提案者:山田 誠志 先生(文部科学省教科調査官) 泉 惠美子 先生(関西学院大学) 菅 正隆 先生(大阪樟蔭女子大学) コーディネーター:太田 洋 先生(東京家政大学)
山田先生からはまず,結論は「『言語活動を通して資質・能力を育成する』ことを指導過程に落とし込んでいくこと」と述べられた後,いくつかのビデオを用いて「言語活動―指導―言語活動」の過程をくり返す授業の実践例を紹介された。指導をする際,How toも必要であるが,活動をストップするときの要因として,教員の「生徒には難しいだろう」などの思考が妨げの原因になることも示唆された。 泉先生は,「お弁当箱の中にある枠は変わるかもしれないが,その中身やそこに込められた愛情は変わらない。授業も同じです」と話された。そして,生徒の意欲や学び続けたいという気持ち,授業が待ち遠しく感じたりコミュニケーションの楽しさなどを授業(教師,生徒との関わり)を通して感じ取れる授業にするために,中・高等学校で求められる英語授業の指導法や留意点,評価などについてたくさんのことを教えて頂いた。 菅先生は,「日本の『頭がいい』の概念が根底から変わるかも」と切り出され,「今まで頭がいいというのは知識力の高さと記憶力を指していたが,それを活用できる子どもの育成を新学習指導要領は目指しているのでは」と繋げられた。過去に出題された思考・判断・表現力を必要とする教員採用試験の一部や大学入試の一例を示され,今後の授業の在り方・評価方法の変更点,教師に求められるものといった内容について述べられた。 これから世界が迎えるAI時代へ向け,教師が担うべき責任や求められる教育について深く知ることができる,大変学びの多いシンポジウムであった。
大脇 裕也(大東市立北条中学校) |